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花の座 伝芭 六月Sansa座『ゆり たなばた』

北宋の山水画家郭熙の言う「夏山蒼翠にして滴るが如し」。「山滴る」季節である。旧暦でも水無月(水の月)に入る。

6月のある日、生垣に植えられている榊の花を見つけた。枝下の葉陰に咲くその花は、生まれたての緑の雫のようだった。まだ緑の蕾が雫のように膨らみ、白く色づいて裂けていく。水滴がプクッと膨らんで咲いて膨らんで咲いて、ポタポタポタポタ、、花の雫が滴り続ける。上向きに咲く花も、例えば同じ時期に咲く梔子の花は、露が葉の上にできるようにプクッと蕾が膨らんできて、やはりしゃぼんが弾けるように咲く。この時旋回運動がある。螺旋状に、香りと共に爆ぜる。膨らみはじめは緑から。緑色からあらゆる花の色が生まれてくる。

郭熙の言葉とされる「春山淡冶にして笑ふが如く、夏山蒼翠にして滴るが如し、秋山明浄にして粧ふが如く、冬山惨淡として眠るが如し」

これは各季節の山の形容だが、花一輪一輪の姿にそのままこの小さな季節が織り込まれている。今手にしている例えば百合のひと茎に、ブルーベリーひと枝に、色がでて見ごろになったもの、まだ青くかたい蕾、咲きはじめあるいは先終わり冬に向かうもの、花の生が混在している。花と人は瞬間に出会い、巡ってきたこの時を過ごし、混じり合う。

今回の伝芭のタイトルは「ゆり たなばた」。盛夏を代表する百合の花に、七夕にまつわる花材を選ぶ。小さなお飾りも用意。写真左から唐糸草、竹島百合、蛍袋。

包まれてきた花を確認。活ける前に折れた枝や痛んだ葉などを整理する。長い葉はヒメガマ。
器を短冊に見立てて、願いは花で立てていく。抛入れの花留めにもなってくれるブルーベリーの枝から一本ずつ巡って活ける。
蛍袋 七夕飾りは器の形や、網や吹き流しなど、富をキャッチしやすい形が多い。蛍袋もそんな雰囲気を持っている。
ガマで抑揚をつけ、花ものを合わせていく。最後に小さな七夕飾りをつけて、みんなで囲む。

お菓子は水無月だった。水無月はそもそもかつて身分の高い人々に振る舞われたという氷を模したとされる。冬の氷をいただくことで、もう半年の始まりを祝ったものだろう。小豆の赤は魔除け。虎屋さんの水無月、甘いものも夏バテを防いでくれそうだ。

星に願いを。花は星のまたたきか、流星か。

天と地のあわいに咲く花。露や雫のように儚く、向こう側からやってきて、色や香りというギフトをもたらし、瞬く間にさようならする。