写真は「音と光」Hiroyuki Omori/Sonomi Oomori
冬至。1年で最も夜が長い日。
下弦へ向かって欠けていく月が地球から遠く離れて輝く。地上は夕刻から風が荒れた。
この四角いコンクリートの部屋は防音もしっかりしていて、風の音すら聞こえない。
山中透「空間の睡眠」の演奏がはじまった。5人のセラピストたちがベッドに向かって立っている。
ベッドにはセッションを申し込んだ5人がブランケットを掛けられて静かに横たわる。
天井からは間仕切りの白い布が垂れすこしゆれている。
音楽は、建築の硬さや冷たさを丸く優しくする。ドームの中にいるみたいに。古代や未来へも空間を
広げてくれる
それぞれのセラピストが一歩二歩と動き 横たわる身体に触れ始める。お腹から触れるセラピスト、足先、頭、右腕のあたり。。。軽くつまむように指先で触れる人、手のひらでふわっとおなかに空気を乗せるひと。頭蓋骨を両手で包むひと。。。
ブランケットに包まれた人は、繭や蛹のようだ。
セラピストたちは一枚の布のせいで、お互いのことはわからない。かろうじてお隣のセラピストが今どの位置にいるかくらいがわかるだけ。
音楽の呼吸と、セッションを受ける人ほどこす人の呼吸がだんだんと合ってくる。
やがて音を頭蓋で感じながら見ていると、驚くべきことが起こった。
毛布をかぶった身体の大きさが小さくなっていたのだ。
安心して、休んでいいんだと理解して、パンパンのからだや意識が静まっていった。
ふうっと 鎮まって、静まって、安らかに、平らかになっていった。
安らかになると、優しくなる。
空間の眠り 丸くなる部屋の薄暗さ…多分子宮の中にいる時のことを思い出すのだろう。
閉じた瞼 眼裏でみる世界
触れられて元にかえっていくからだ
しがみつかず、流されていくからだ
波に揺蕩う魂 もともとそんな風にからだに宿った
触れる手
ふれる は ふゆ と根でつながっている
「みたまのふゆ」だ
長い夜
静かに眠りにつくいのち
少しずつ 少しずつ
触れられて 振るわされて
賦与されて 増えていく
ふるふると時を経て はるにむかう
目覚めたからだは みどりご
みんなつやつやなお顔で ベッドから起き上がった
生まれたての 紅潮した頬をして
芽生えたばかりの双葉のよう
ふわふわと 繭から生まれた蝶のよう
世界を初めて見た 全部新しいひとみに光が射す
太陽の生まれかわりの日 宙ではどんな音楽が鳴り響くのでしょう
地上では こんな音楽が 冬至の夜の 擬死再生のセレモニーを抱いてくれました
そこでは冬の陽射しのような10本の手が かざされて
星のからだを優しく照らしていたのです